架空の彼氏 01

12月 17th, 2011

「……あやこ。」
名前を呼んでやると、綾子の肩がビクンッと跳ねる。
綾子はぎゅっと目を瞑り、再び申し訳なさそうに俺に言う。
「本当ごめん……!あたし本当にあんなつもりじゃなくて……!」
さっきから何度も同じセリフ。
俺はため息をついて、手招きする。
「綾子。……こっちおいで。」
綾子には何度も同じセリフを返している。
なのに謝り続けている綾子は、ショボショボと俺の元へ歩いてくる。
俺はほんのちょっと背伸びして、
俺より少しだけ背の高い綾子の頭に手を伸ばす。
あー……俺やっぱもうちょっと身長あったらな……
なんて悲しいことを一瞬考えてしまった。
「だから、ほらっ。気にしてないって。」
俺は優しく、柔らかい綾子の真っ黒な髪に指を絡ませながら、
頭をクシャクシャと撫でてやる。
綾子はくすぐったそうに、でも未だに申し訳なさそうに微笑む。
――そもそも何を綾子がこんなに謝っているかというと。
昨日の話。
その時は職場でチームを組んでいる同僚と、
暇つぶしに談笑していた時。
俺以外の皆、徹夜気味だったのかテンション高かった。
元々気分が乗らないとあんまりしゃべらない俺は、
同じ輪にいながらなんとなく会話を聞いていた。
「綾子ちゃんって恋人いるんでしょ?ねぇ、どんな人?」
違和感なく話題は恋の話に移っていって、
先輩の並木さんの問いかけが変に響く。
他の同僚の何人かは苦笑気味で、
でも後輩の竜原さんは興味津々で綾子の返答を待っていた。
交際を明かしていない俺と綾子だから、
もちろんまさか「隣の人がそうだよ」なんて宣言されるはずはないと知っており、
だから特に俺は焦りはしなかった。
「どんな……人?」
「うん。」
綾子がチラッと俺を見る。
それを見逃さず、竜原さんが俺に飛びつくように問う。
「え!?鉄也さん知ってるんですか?!どんな人ですか!?」
綾子の本当の視線の意味を分かっておらず、
助かったのは助かったんだけど……。
「いや、どんなって言われても……」
俺は綾子に助け舟を頼む視線を送る。

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